クラウドエンジニアが内定後に年収を上げるオファー交渉術

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夜中にSlackで届いた初めての外資SREオファー。基本給は魅力的だったものの、RSUの付与スケジュールやオンコール手当が曖昧で、このままサインするか迷いました。結局、数字と根拠をそろえて交渉し、総額で+180万円を積み増せた経験があります。この記事では、同じように「オファーをもらったけど年収交渉はどう進める?」と悩むクラウドエンジニア向けに、現場で通りやすかったやり方を置いていきます。


交渉で動かせる項目と動かせない項目

「年収交渉=基本給アップ」だけではありません。クラウド/SREロールで実際に動いた・動かなかったラインを分けておきます。

  • 動きやすい: 基本給レンジ内の上振れ、サインオンボーナス、オンコール手当の単価、リモート手当、入社時RSUの初期付与量、リロケーション費用
  • ケースバイケース: 業績連動賞与の最低保証、評価グレード(L4→L5など)、RSUのベスティングスケジュール前倒し
  • ほぼ動かない: 職級テーブルそのもの、裁量労働の採否、完全フルリモート不可の方針

ポイント: 会社の報酬ポリシーに乗る範囲で「例外」を作ってもらうのが現実的。最初から制度自体を変えようとしない。


交渉前にそろえる「根拠パッケージ」

交渉は「お願い」ではなく「根拠提示とリスク低減の提案」です。以下の4点を事前にセットで用意すると通りやすくなります。

  1. 市場レンジ: 同レベルのクラウド/SRE求人3〜5件の総額レンジ(基本給+賞与+RSU+手当)。求人票をスプレッドシートで並べ、中央値を示す。
  2. 成果の定量化: 「SLO達成率3pt改善」「誤報アラート40%削減」「Terraform標準化でリードタイム30%短縮」など、転職先で再現できる実績を数字で準備。
  3. コストインパクト試算: 例)オンコール自動化で1人月削減、ALB/NAT設計見直しで月額△万円削減。この試算を「入社後90日で取り組む案」として添える。
  4. 比較表(ドラフト): Base/Bouns/RSU/手当/勤務形態/ストックのベスティングを1ページにまとめ、どこを動かしたいか赤枠で示す。

オファーレター比較に使えるシート例

項目                | 企業A(現状) | 企業B(第一志望) | 差分メモ
基本給              | 820万         | 880万             | 880万希望、上限確認
サインオンボーナス  | 0             | 50万              | 70万を提案
RSU/付与スケジュール | 200万/4年     | 300万/4年         | 初年度前倒し相談
オンコール手当       | 月2万円固定   | 1回1.5万円        | 実績次第で月3万円を希望
リモート手当         | なし          | 月1万円           | 維持
勤務形態             | 週3出社       | フルリモート      | 週1出社までなら可と伝える

ゴールは、希望と代替案を同時に提示し、担当者に「この条件なら社内で通せそう」と思ってもらうことです。


交渉の進め方(メール+30分ミーティングの型)

  1. メールで事実を整理する
    • 受領した条件を箇条書きで確認し、感謝を述べる。
    • 「市場レンジとこれまでの成果を踏まえ、下記2点をご相談させてください」と前置き。
  2. 希望と代替案を同時に出す
    • 例: 「基本給を年額+50万円、もしくはサインオンボーナス+50万円のどちらかで調整いただけると助かります」
    • ベスティング前倒しやオンコール手当など、給与テーブルを崩さない代替策を提示。
  3. 30分のオンラインミーティングで詰める
    • 技術面を評価したHiring Managerと、条件を握るHRが揃う場を依頼。
    • こちらの提供価値(入社90日プラン)→希望条件→代替案の順で伝える。
  4. 合意内容を必ず書面でもらう
    • メールで再送し、差分を明文化。RSUや手当の開始時期も明記しておく。

複数オファーがない場合の交渉カード

  • 社内で通りやすい施策をセットで差し出す: 例「入社後90日でAWSアカウント統合とコストタグ付けを完了し、月△万円削減に着手します」。金額根拠を示すと承認されやすい。
  • 評価グレードの再査定タイミングを前倒し: 基本給が動かなくても「入社6ヶ月での評価チャンス」を確約してもらうだけで実質年収が上がる。
  • リモート頻度・オンコール頻度の調整: 実質的な可処分時間が増える条件も価値が高い。週1出社+オンコール回数の上限など数字で設定。

カウンターオファー(現職引き留め)の扱い

現職のカウンターオファーは短期的に魅力的でも、責任範囲が広がらないまま給与だけ上がるケースが多い。キャリア成長と市場価値の観点で判断するために、以下を確認。

  • 追加責任や役割が明文化されているか(例: プラットフォーム刷新のリードを任せる、SLO策定のオーナーになる)
  • 昇給が一時的か恒常的か、評価テーブルに反映されるのか
  • 技術スタックやプロダクトの更新頻度が今後どうなるか

迷ったら、転職先オファーの優位点(技術領域、成長機会、リモート可否)を書き出し、短期年収と長期市場価値の両方で比較する。


年収交渉を支える「入社後90日プラン」の雛形

交渉材料として提示できる具体プランを置いておきます。自分の強みと転職先の課題に合わせて調整してください。

  • Week 1-2: プロダクトのSLO/SLIを棚卸しし、アラートの誤報率を現状計測。Datadog/CloudWatchのダッシュボードを再整理。
  • Week 3-4: Terraformモジュールの標準化着手。VPC/ALB/ECS/RDSの最小構成を共通化し、terraform plan をPRコメントに自動投稿。
  • Week 5-8: コストタグ付けとFinOpsダッシュボードを作成。NAT Gateway/ALBのAZ配置見直しとSavings Plans試算を提案。
  • Week 9-12: オンコールRunbookを刷新し、MTTRと検知遅延の短縮を計測。改善幅をレポートし、次期予算に反映。

数字と期限を添えたプランを見せると、**「入社初期から投資回収できる人材」**として交渉が進みやすい。


交渉のNGパターン

  • 「年収を上げてほしい」だけを繰り返し、根拠を出さない。
  • 市場レンジを示さずに他社オファーをちらつかせる。
  • HRだけとやり取りし、意思決定権のあるHiring Managerを巻き込まない。
  • 口頭合意をメールで残さないままサインする。

まとめ:今日からできるチェックリスト

  1. 受け取ったオファーを上の比較表に転記し、動かしたい項目に赤枠を引く。
  2. 自分の実績を数値化した箇条書きを3つ作る(SLO改善/コスト削減/自動化など)。
  3. 入社後90日プランをドラフトし、交渉メールに添える。
  4. 希望条件と代替案をセットにしたメールテンプレを作成し、30分のミーティングを依頼。
  5. 合意内容を必ずメールで再確認し、RSUや手当の開始月を明文化する。

年収交渉は「根拠+代替案+入社後の回収プラン」の三点セットで挑むと、過度な押し引きにならず前向きに進みます。落ち着いて準備して臨みましょう。